春屋

こちらはゲーム「THE IDOLM@STER」「東方project」を応援しているサイトです。管理人のプレイ日記や、SSが置いてあります。
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上を向いて……


                    PM 3:00 TV局

「では、今回のオーディションの合格者を発表します。」

審査員が合格者の番号を読み上げている。そこには、このオーディションを受けた、春香とプロデューサーの姿もあった。

「1番さん、4番さん、……最後に5番さんです。残りの方は帰っていただいて結構です。お疲れ様でした。」

「えっ……」

春香はつい声を上げて驚いてしまった。今日は調子も良いし、レッスンもかなりこなした筈なのに……そんな思いが、春香の心の中で渦巻いていた。プロデューサーも、今回の結果は納得がいかないようで、ずっと無表情で結果を聞いているだけだった。

          PM 3:30 TV局 控え室

「はあ?……久しぶりに、オーディションに落ちちゃったな?。……今日は絶対に勝てるって思ってたのに。プロデューサーさんもそう言ってくれたのに……そういえば、どこに行ったんだろうプロデューサーさん?」

その頃、プロデューサーはTV局の廊下で審査員の3人と話をしていた。

「あなたは……天海さんの。何か御用かしら。」

「ああ。今回のオーディション、なんであいつが落とされたんだ。実力なら負けてないと思う。それに……」

「そうね……確かに、天海さんの実力はすごいわ。最初の頃が嘘の様なくらいだわ……でも、そこまでなのよね。」

「えっ?」

「そうだね?、確かに最近はマンネリって言うか……ちょっと飽きてきた感じもあるんだよね?」

「そうなのよ!最近の彼女には、こうビビッ!とくる物がないよ……」

プロデューサーは黙ってそれを聞いている。それは、プロデューサー自身も分かっている事なのだから。確かに、春香は今や、スーパーアイドルではあるが、最近になって少しずつなのだが人気に陰りが見えてきたのである。

「……それは、あいつがもう限界だって言ってるのか」

「そうは言わないわ。でも、そうなりかねないのよ、今のあなた達は。まあ、がんばりなさい。」

「そういう事で。次は俺が気に入るようなアピールしてくれよ」

「そうね、私もビビッ!とくる様なのを期待してるわよ?」

それだけ言うと、審査員の3人は去っていった。プロデューサーはただ、立ち尽くしているだけだった……

           PM 4:00 TV局 控え室

「あっ!プロデューサーさん、どこに行ってたんですか?。ずっと待ってたんですよ」

春香は待ちくたびれた様子で、プロデューサーを迎えた。プロデューサーは、さっきの事が気にはなっているものの、春香に心配をかけないために、なるべく普段通りを装う事にした。

「ん……、悪いな。さて、帰るか……なあ、春香」

「なんですか?……あ、プロデューサーさん。どこへ行ってたか当ててあげましょうか」

プロデューサーは、呆れた顔をしながら頭を掻いている。春香の方は、たまたま昨日見た推理ドラマの主人公宛らの探偵っぷりである。

「あ?お前なあ、そんなのあたる訳ないだろ……」

「ふふふ、ズバリ!審査員さんの所へ行ってましたね!」

ビシッと、指を指されてそう言われたプロデューサーは表情を引きつらせた。

「そうですね、理由は……やっぱり、私の事を聞きにですね。はっ!まさか、それが動機で審査員さん達を……」

「……帰るぞ?春香?」

春香のこめかみにグリグリと拳を押し付け、プロデューサーは怒りながら部屋を出て行ってしまった。

「じょ、冗談ですよ?痛いですよ?……」

春香は頭を両手で押さえながら、プロデューサーの後ろを追いかけていった。

          PM 5:00 765プロ 事務所

「あ、おかえりなさい。春香ちゃん、プロデューサーさん。どうでした、今日のオーディションは……」

二人を明るく迎えた765プロの事務員、音無小鳥が二人の表情を見て「しまった!」という顔をした。

「あの、えっと、なんて言いますか……そ、そんな日もありますよね。次をがんばれば……」

小鳥の慰めも逆効果で、さらに表情を曇らせる春香とプロデューサー。小鳥がどうしたらいいか分からずオロオロしていると、そこへ丁度いい人物が帰ってきた。

「たっだいまー!……って、どうしたのそこは?なんか、真っ黒オーラが出てるというか……」

「あっ!律子さ?ん!よく帰ってきてくれました?!」 

小鳥は、帰ってきたばかりの律子に抱きつく様な勢いですがりついた。まったく状況が飲み込めない律子の後ろから、仕事を終えてきた千早と雪歩が顔を出した。

「一体、何の騒ぎですか音無さん。プロデューサーに春香……、何かあったんですか」

「二人とも、なんかすっごく暗い顔をしてます。どうしたんですか?」

「えっと、実はね……」

春香は、その場にいたみんなに今日あった事を話した……

「なるほどね。まったく、そんな不合格の1回や2回で落ち込んでどうするの!春香、あんたのいい所はどんな事にも凹まない様な事でしょ!」

「律子さん……」

「そうだよ、春香ちゃん。次、がんばれるように私もお手伝いするよ」

「仕方ないわね、私も付き合ってあげるから。明日、いつもより早く来なさい、春香」

「雪歩、千早ちゃん?……ありがとう?!」

ガバッ!と、二人に抱きついて喜びを表している春香。そんな光景を見ながら、まだ浮かない顔をしているプロデューサーを律子は肘で突付いた。

「ほら、あんたも何か言ってやりなさいって。あんたがそんなんじゃ、春香だって落ち込んだままよ」

「ああ、わかったよ。えっと……春香」

「はい、プロデューサーさん」

千早達のおかげか、いつもの明るさを取り戻した春香に、プロデューサーも負けないように元気良く言葉をかけた。

「明日からいつも以上に特訓するからな!気合入れて来いよ!」

「はい!わかりました!それでは、おつかれさまでした?!」

すっかり元気を取り戻した春香は挨拶をして帰宅していった。

「それでは、私達もこれで」

「おつかれさまでした、プロデューサー」

「あ、お前ら……」

千早と雪歩が帰ろうとすると、プロデューサーが引きとめた。

「えっと、ありがとうな。春香の事……」

プロデューサーがそう言うと、二人は顔を見合わせて笑ってしまっていた。

「プロデューサー、お礼なんていらないですよ。春香は、私達の仲間なんですから」

「そうですよ。それに、春香ちゃんが元気ないと、私達も元気が無くなっちゃう様な気がします。春香ちゃんには、やっぱり笑顔が似合いますから」

二人にそう言われ、プロデューサーは何とも言えない気持ちになった。最初は家庭の事情もあってか、自分の事で精一杯な感じがあった千早。でも、今は、事務所の「仲間」と言って春香を心配している千早を、心から褒めてやりたいと思った。雪歩にも同じ気持ちだ。引っ込み事案な雪歩が、誰かのために頑張ろうとしている。前の雪歩なら、オロオロするだけで何もしなかっただろう。そんな二人の成長振りに、プロデューサーは心底嬉しかった。

「……それでも。ありがとう、二人とも」

「はい。プロデューサーも元気出してください」

「そうですね。でないと、萩原さんや高槻さんまで元気を無くしかねないですし……」

「ち、千早ちゃん!私は別にその……それでは失礼します!」

雪歩は突然走って帰ってしまった。その途中で壁にでもぶつかったのか、廊下に向こうから「ふにゃ!」とか奇声が聞こえてきた。

「さて、私も帰ります。お疲れ様でした。」

千早も挨拶をすませると帰っていった。残ったプロデューサ?は、二人が帰ったのを見送った後、自分のデスクに座ってため息をついた。そして、そこをすかさずに律子に突付かれる。

「こらっ、あんたはいつまでしょげてるのよ。それでも、私達のプロデューサーですか?」

いつもながら、容赦無い言葉をプロデューサーにかける律子。でも、彼女なりにプロデューサーに元気を出して貰おうとそんな事を言ったのだった。だが、いつもならここで言い返してくるのに、ただ黙っているだけだった。

「あの……他に何かあったんですか?私達で力になれるか分かりませんけど……」

小鳥が心配そうにプロデューサーに話しかける。律子もそれを聞いて頷いている。それを見て、プロデューサーは「あの事」を話す決心が付いた。

「……今日、オーディションが終わった後、審査員達に聞いたんだ。なんであいつが選ばれなかったって。」

「それで?なんて言われたのよ。」

プロデューサーは言いたくない言葉を、顔には出さないものの悲痛な思いで言った。

「直接、ハッキリ言われたわけじゃないが……あいつも俺も限界だって……」

律子はそれを聞いて、プロデューサーに近寄り一言、ハッキリと言った。

「あんた、本物のバカね!」

「なっ!」

「り、律子さん!いきなり……」

律子はプロデューサーのネクタイをつかんでさらに怒鳴り続ける。

「いい!たかが、そんな事言われたくらいでいちいち凹まない!私だって、最近はプロデューサーとしてやっていける様に勉強してるけど、「アイドル上がりに何が出来る」みたいな事言われた事だってあるのよ!でも、私はあんたみたいな、「何を言われても、自分を貫く」プロデューサーになる為にがんばってるの!そのあんたが、たまたま負けたオーディションで、嫌な事言われたぐらいで落ち込まないでくださいよ!……私まで、バカみたいじゃないですか……」

プロデューサーは黙って律子の話を聞き続けた。しばらく時が止まったかの様な静寂の後、プロデューサーは口を開いた。

「律子……」

「なんですか、プロデューサー」

「……顔が近いって」

バキッ!っと、律子の右ストレートがプロデューサーの顔面に炸裂した。

「痛って?、……いや、ちょっとこの空気に耐えられなくなってな」

「あんたって人は……もう知りませんからね!」

律子は背を向けて帰ろうとしたが、プロデューサーに腕をつかまれてしまった。

「なっ、なんですか。」

「ありがとうな、律子。そうだよな、たまたま一回ぐらい、嫌な負け方しただけだもんな。よし!明日は俺も春香のレッスンに力を入れるか!」

「プロデューサーさん、やっといつものプロデューサーさんに戻りましたね。さすが、律子さんですね。私、尊敬しちゃいます♪」

小鳥は目を輝かせながら律子を見ている。律子はそれが照れくさいのか、そっぽを向いている。

「別に、私は特別な事はしてないって……」

「しかし、律子が俺の事をそんな風に思っていてくれたとはね?……ちょっと意外だぜ」

律子はさっきの自分の発言を思い出して、今更になって恥かしさが襲ってきた。

「さっ!さっきのは、何ていうかその!」

「まあ、律子にもかわいい所があるって事か、あはは。……律子さん、椅子は座る物で投げる物では……」

「一回、しんでこーーーーい!!」

ガッシャーン!!

律子はプロデューサーに椅子を投げた後、さっさと帰ってしまった。プロデューサーはかなりの ダメージを負ってしまっていた。

「う?ん、いつものプロデューサーさんに戻るのはいいけど、ちょっと調子に乗り過ぎちゃいましたね……大丈夫ですか?」

いつの間に避難していたのか、小鳥がひょっこり出てきてプロデューサーの所へ戻ってきた。

「……な、なんとかな。お前、いつの間に逃げたんだよ……」

「……あっ、私もそろそろ帰りますね。お疲れ様でした?」

小鳥は逃げる様に去ってしまった。残されたのは、自分の所のアイドルに椅子を投げられ、心身 ともにボロボロのプロデューサーが一人であった。

「……はあ。明日、がんばるか」

そして次の日……

       AM 10:00 ボイスレッスンスタジオ

「おはよう。春香、居るのか?」

プロデューサーがスタジオに入ると、そこには休憩中の春香達が座っていた。その傍らには、ボイストレーナーの先生も居た。だが、どうしてなのか表情は暗いようだ。

「どうしたんだ。レッスン、うまくいかないのか?」

「はい。状況は、あまりよくありません……」

千早にそう言われ、春香の表情は曇っていく。

「どうしてなんだろう……春香ちゃん、別に体調悪いわけじゃないよね?」

「うん……あはは、本当にどうしたんだろうな?私……」

何とか笑顔で取り繕っているが、それが逆に痛々しくも見える。堪りかねたプロデューサーが、 目の前で歌ってみる様に指示をしたのだが……

「……どうしたんだよ、春香。ぜんぜん声も出てないし、リズムも取れてないぞ」

「やっぱりですか……千早ちゃん達にも同じ事言われたんですけど、自分ではよく分からなくって……うぅ……」

プロデューサーにまで、千早達と同じ事を言われてしまい、本当に落ち込みモードに入ってしまった春香。それを見て、ボイストレーナーの先生が口を開いた。

「プロデューサー君、ちょっといいかな」

先生に呼ばれ、プロデューサーはスタジオの端の方へ移動した。

「ん?なんだよ、なんか良いアイディアでもあるのか」

「いや。そんなのがあったら、天海君にもう教えているさ……」

「じゃあ、なんだよ。もったいぶらずに言ってくれ」

「天海君が歌えなくなった理由は、心の問題だと思うんだけど……僕が考えるに、昨日の事をまだ引きずっているんだと思う」

確かに、それはあるかもしれないとプロデューサーは考えた。でも、昨日はいつも通りに帰って行った筈なのだ。そう考えていると、先生は言葉を続けた。

「彼女達はね、君が思っているほど強くはないよ。そう簡単に、辛い事を割り切れるようには出来ていないさ。だって、まだ15、6の女の子なんだから……」

プロデューサーは自分の浅はかさを呪った。自分だってあれだけ堪えたのに、それを春香が受け止めきれるわけないのだ。あの時、元気に見せたのだって、プロデューサー達を心配させない為だったと、何故気が付かなかったのか。そんな自分が、本当に許せなかった。

「ほら、そんな顔をしていたら、彼女達も不安がるよ。少し、外の空気を吸ってきたらどうだい」

プロデューサーは先生の言うとおりにすることにした。確かに、こんな状態の自分では何も出来ないと思ったからだ。その途中、未だにレッスンがうまくいかない春香と目が合った。

「あっ……プロデューサーさん。もしかして、帰っちゃうんですか?」

春香が、ものすごく寂しそうな顔をしてそんな事を言ったので、プロデューサーはわざと明るく振舞う事にした。

「ちがうって。ちょっとタバコ吸って来るだけだ。お前を置いて、帰れるわけ無いだろう。すぐ戻るから、ちゃんとレッスンしてるんだぞ、いいな」

そう言って、プロデューサーは春香の頭を撫でた。嫌がるかと思われたが、春香は黙って撫でられているだけだった。

「じ?……」

そんな事をしていると、雪歩がプロデューサーを凝視していた。

「な、なんだ、雪歩。俺に何か?」

「いえ……その、春香ちゃんだけ、ずるいな?って……」

要するに、雪歩もプロデューサーに頭を撫でて欲しいらしい。プロデューサーは内心、「俺はこいつらの父親か……そんな年じゃねえぞ……」と、思いながらも、仕方なく頭を撫でてあげる事にした。

「これでいいか?まったく、これじゃあ、亜美や真美と変わらないな」

「えへへ?……ありがとうございます、プロデューサー」

「やれやれ……ん?」

何やらまた視線を感じるので、後ろを振り向いてみるとそこには……

「……何か御用ですか。千早さん……」

「いえ、別に……。ただ、私も春香に協力してるのに、ちょっと不公平かなと……」

プロデューサーは、ため息をしながら結局、千早の頭も撫でてやる事にした。

「……お前は大人だと思ったんだけどな?、ちーちゃん……」

「その呼びかたはやめてください!……まあ、たまにはいいじゃないですか」

外に出て、気分転換をしようとしたその前に、すっかりプロデューサーは疲れてしまった。トドメは、先生のこの一言だった。

「いや?、君はきっと、いいお父さんになるだろうね」

「…………ほっとけ」

           AM 11:30 スタジオ前

外に出たプロデューサーは、先ほど先生に言われたとおり、気分転換しようとタバコを取り出し、火を点けようとしたが。

カチッ……

「む、買ったばっかりなんだけどな……」

カチッ、カチッ!

「……おいおい」

カチッ、カチッ、カチッ!!

プロデューサーが何度火を付けようとしても、ライターが火を噴く様子は無かった。いい加減、指が痛くなった所でついに……

「だーー!なめんなーー!!」

プロデューサーはキレてしまい、ライターを地面に叩きつけてしまった。その後、ため息と共にしゃがみ込んでしまった。

「はあ??……何してんだ、俺。マジでもうだめなのか……。いや、まだまだ!なんかいい方法がある筈だ!何か、そう何か……」

プロデューサーが、しゃがみ込んで独り言をブツブツ言っていると、聞き覚えのある声が後ろからした。

「あ、いたいた?♪兄ちゃん?!」

「亜美か?後にしてくれ、今、考え事を……ふぐっ!」

振り向きざまにスティックキャンディーを口に入れられてしまい、言葉を遮られてしまった。

「あれ?兄ちゃん、なにか言った??」

「きっと、アメをあげたお礼だよ真美♪」

「……お前ら!あぶねーだろうが!!」


プロデューサーは、口に入れられたスティックキャンディーを咥えながら。二人におもいっきり アイアンクローを食らわした。

「に、兄ちゃん……ギブ、ギブ」

「じ、地味に痛いよ?……」

「はいはい!その辺で、許してあげなさいって。大人気ないな?」

気が付くと、後ろに律子が立っていた。その隣には、やよいと伊織も居た。

「お前ら、どうしてここに居るんだよ」

「どうしてって、レッスンをしに来たに決まってるじゃない。あんたこそ、ライターに八つ当たりしたと思ったら、しゃがみ込んでブツブツと、何してたのよ?」

「……さっきの見てたのかよ」

「はい……プロデューサー、すっごく怖かったです?」

「私は、暑さにやられて壊れたのかと思ったわよ。本当に何してるんですか、プロデューサー」

さっきの自分を見られたと思うと、途端に恥かしさが込み上げてきたプロデューサーは、とりあえず、自分がここに居た理由を説明しようと思った。

「え?っと。俺はだな、ちょっと気分転換にタバコでも吸おうと、ここでだな……」

「ライターに八つ当たりしてたと。あ、これ、証拠ね?」

そう言って、見せられた伊織の携帯には、先ほどのカッコ悪い自分が、動画で記録されていた。

「……い、伊織様。お願いですから、それは早急に消して頂きたいんですが」

「どうしようかな??プロデューサの弱味を握るなんて、滅多にないことだし、にひひっ♪」

我ながら、「失敗した……」と思いながらも、これから伊織の命令に逆らえなくなるのか、とかプロデューサーが考えていると、やよいが助け舟を出してくれた。

「あの、伊織ちゃん。プロデューサー、かわいそうだよ……」

「ムッ……しょうがないわね?、やよいに免じて、今回は許してあげるわ。感謝しなさいよ」

「うう……なんか、さらに自分が情けなくなってきたぞ」

外に出て気分転換するつもりが、さらにストレスをためる結果になってしまい、プロデューサーはやるせない気持ちで肩を落とした。そこへ、律子がペシっと頭を叩いた。

「何するんだよ……」

「まったく、チビッコ達にからかわれたぐらいで。春香の方はどうなんですか?」

「うっ……、そ、それは」

律子は、プロデューサーの表情を伺っただけで、春香が今どんな状況なのかなんとなく分かった。

「で、いつまでそんな所でヘタレてるつもりですか。今、プロデューサーがやらなきゃならない事は、他にあるはずですよ。」

「律子……」

「そうだよ兄ちゃん!そんなヨワヨワな兄ちゃん、ちょっとかっこわるい?」

「真美もそう思う?。兄ちゃん、はるるんだってがんばってるんだし、兄ちゃんもがんばらなきゃダメだよ♪」

「亜美、真美……」

「まったく!私達にまで世話焼かせないでよ!……ジメジメしてるあんたって、なんか見ていて痛々しいし。さっさと、元気出しなさいって!」

「プロデューサー!こんな時こそアレですよ!手を上げてくださ?い!」

「あ、ああ……そうだな」

プロデューサーは顔を上げ、やよいの方へ手を伸ばす。

「ハイ!ターーッチ!!いえい!元気でましたか、プロデューサー!」

「お前ら……ありがとうな。よっし!充電完了だ!じゃ、俺は戻るぜ。お前達も、レッスンがんばれよ!」

プロデューサーは立ち上がると、足早にスタジオに戻っていった。その表情は、ほんの数分前とは別人の様だった。

「……やれやれ、本当に世話が焼けるんだから」

「やよいっち、気は済んだ??」

「えっ?何の事かな……」

「やよいってば、プロデューサーが元気ないって知ってから、落ち着きが無かったものね?。よかったわね?、いつもどうりに戻って、にひひっ♪」

「わわっ、伊織ちゃん!別に、私は?」

「はいはい、そこまで。ほら、プロデューサーが言ってたでしょ、私達もがんばらないと」

「は?い!律っちゃん、兄ちゃんに負けないようにしないとね?」

「当たり前よ!さあ、ビシバシ行くわよ?!」

「う、真美は、ほどほどにしてほしいかも……」

          PM 12:00 スタジオ内

勢い良く中に戻ってきたはいいが、どうすれば春香が今の状況を打破できるか。それを悩んでいた。

「ん????。何か、刺激があればいいんだよな……、でも、どうすれば……」

春香のレッスンを眺めながら、必死でプロデューサーが考えているその時だった。いきなりスタジオのドアが開き、息を切らせた小鳥が入ってきた。

「ハア、ハア……、プ、プロデューサーさん」

「なっ、どうしたんだよ小鳥。俺に何か急用か?」

「ハア……、はい!これを社長から預かってきました!」

そう言って差し出されたのは、ラベルも何も貼ってない一枚のCDであった。

「音無さん、これ飲んでください。それで、このCDは一体……」

千早が冷たい飲み物を渡すと、小鳥はそれを飲み干してから答えた。

「ありがとう、千早ちゃん。あ、そうですよ!このCDは、春香ちゃんとプロデューサーさんにとって、まさに伝説の剣並みのアイテムなんですよ!」

「えっと……、つまりこのCDは、それだけ重要って事なんですか?」

「雪歩、俺に聞くなよ……」

プロデューサーも雪歩も、良く分からないという顔をしていると、先生がそのCDを手に取り、春香に差し出した。

「はい。これは君の物だよ、天海君。このCDには、君のために作った新曲が入ってるんだ」

『えーーーーーー!!』

小鳥と先生を除く、その場にいた全員が声を上げていた。

「なっ、そんな!俺は何にも聞いてないぞ、おい!」

「私もですよ?!いつの間に、作ったんですか!」

「君達の社長さんに頼まれてね、今まで極秘で作ってたんだよ。まったく、あの人にはかなわないな。きっと、君達がこうなる事を予想していたのかもしれないな。それで、僕も協力して製作したんだ」

プロデューサーと春香は、あまりにも驚きが大きいせいか、表情が引きつってしまっていた。

「あの、プロデューサーさん、さっそく聞いてみましょうよ。私、聞いてみたいです!」

「あ……ああ。千早、これ頼む」

「はい。ちょっと待ってください……では、流します」

千早がミニコンポのスイッチを入れると、そこから流れてきたのは、明るく、軽快な曲。それと、前向きに行こう、という歌詞であった。ただ、歌っている声が、聞き覚えのある声だった。

「……もしかして、これを歌っているのは、音無さんですか!?」

千早が驚きの声を上げると、小鳥は恥かしそうに頷いた。

「え?っと、社長に頼まれてね……。すっごく緊張したんだから?。もう、何年も歌ってないって言ったのに……でもね、春香ちゃんやプロデューサーさんの力に少しでもなれるならって」

「でも、すっごく上手です……それにこの曲の感じ、春香ちゃんにピッタリかも!」

「え?そうかな……あれ、プロデューサーさん?どうしたんですか、さっきから黙ったままですけど……」

「あはは……ははは!こいつはいいぞ!小鳥、たしかにこの曲は伝説の剣並みだ!よし、春香!今日はこの曲を完全にマスターするまで帰さないからな!覚悟しろよー!」

「ええっ!そんな、帰さないだなんて……私も、いろいろと準備が」

春香が変な勘違いをしていると、すかさず頭を鷲づかみされてしまった。

「あ??、プロデューサ?、痛いです??」

「お前な?……、こんな時までお天気頭なのか?そうだ、千早に雪歩。お前らも協力するって言ったからには最後まで付き合ってもらうぞ、いいな!」

「わかりました。それに、最初からそのつもりでしたし。春香、さっきより厳しくいくわよ」

「うう……、千早ちゃん、怖いかも。でも、私もがんばって協力します!がんばろうね、春香ちゃん!」

「二人とも、ありがとう?!私、がんばるよ!プロデューサーさん、新曲の歌詞見せてください!」

「ああ、さっき、小鳥からもらったのがこれだ。ちゃんと覚えろよ……あれ、小鳥は?」

プロデューサー達が気が付くと、小鳥は既にスタジオには居なかった。その頃、小鳥はスタジオの外で電話をしていた。

「……あ、社長ですか。お届け物、確かにプロデューサーさん達に渡しましたよ」

「そうか。これで、天海君も彼も大丈夫だろう……」

「でも社長、もし間に合わなかったら、どうするおつもりだったんですか?ヘタをしたら、二人とも潰れちゃってましたよ……」

「ふむ。小鳥君、だからこそ、間に合うように大急ぎで手配したんだよ。いや、久々に私自らが動く事になるとは思ってなかったがね。ははは」

「う?、笑い事じゃないですってば。でも、私、社長を見直しましたよ。いつも、座ってるだけの人かと思ってたんですけど」

「うおっほん!小鳥君、早く帰ってきてくれたまえ、いいね」

「あ……はい、ただいま帰ります?!」

小鳥は、帰る途中でもう一度スタジオの方を振り向いて、こう呟いた。

「春香ちゃん……がんばれっ!……と、早く帰らなくっちゃ」

小鳥が去った後のスタジオからは、いつまでも春香の歌声と、プロデューサー達の声が響いていた……

それから、一週間が過ぎた……

            AM 7:00 天海家

チッチッチッチッチ……ピピピッ!ピピピッ!

「うん?……もう朝か?。ん???、よし!体調は完璧、問題なしっと!」

春香は、目覚まし時計を止めると、部屋のカーテンを開け、全身を伸ばした。

「う?ん、天気も最高。これなら、今日のオーディションは大丈夫!……うん、大丈夫だよ」

新曲を貰ってから今日まで、春香はひたすらにレッスンに打ち込んだ。そのおかげもあって、 スランプからも脱出し、以前よりも歌のレベルは上がっている筈である。それでも、多少の不安が、 春香の中にまだ残っていた。

「……だめだめ。こんな事じゃ、協力してくれたみんなや、プロデューサーさんに申し訳ないよ。よーし、今日はがんばるぞー!」

着替えを済ませ、1階へ降りてきた春香を母親が迎えてくれた。

「あら、今日はいつもより早いわね。……そっか、今日だったわね、オーディション」

春香の母親は、カレンダーに付けてある印を眺めてそう言った。

「うん、今日はこの前みたいにならない様に、がんばってくるね」

「……ねえ、春香」

春香の母親は、春香を後ろからやさしく抱きしめた。春香も、いきなりだったので、かなり驚いてしまっている。

「おっ、お母さん?いきなりどうしたの?」

「そんなにね、無理しなくてもいいのよ。春香、今までもすっごくがんばってきたじゃない。もしね、辛かったら、もうおしまいにしてもいいのよ。お母さん、無理してる春香は見たくないもの……」

「お母さん……、私ね、無理なんかしてないんだよ。確かに、100%してないって言ったらウソだけど、私を支えてくれるみんなや、ファンの人たち……それに、プロデューサーさんが居てくれるから!その人たちのためにも、まだ終われないよ、お母さん」

母親の顔を笑顔で見上げて、春香は誇らしげにそう言った。その表情には、さっきまで抱えていた不安はまったくなかった。そんな、春香の台詞を聞いて、母親も安心したのか春香からそっと離れる。

「あらあら。いつの間にか、アイドルとして立派になったのね。それなら、お母さんも何も言わないわ。がんばってらっしゃい、春香」

「うん!ありがとう、お母さん!」

今度は春香の方から母親に抱きつき、春香の母親もそんな春香の頭をやさしく撫でていた。そんな光景を、一人寂しく眺めていた人物が、二人に声を掛けた。

「えっと……お父さんも居るんだけどな?……」

「あ、お父さん。居たんだ?」

「あら、あなた。まだいらしたんですか?」

「いや、その……いいんだ、妻と娘が幸せなら、お父さんは影ながらでもがんばるよ」

春香の父親は、遠くを見るような目で二人を眺めていた。もちろん、二人には父親の気持ちなどは分かっていなかった。

          AM 8:00 765プロ 事務所

「さてと……そろそろだな」

プロデューサーが、自分のデスクでコーヒーを飲みながら、スケジュールの書いてある手帳を眺めている。そこには、今日の日付に「決戦!!」と書いてある。

「……なんですか、この決戦って?」

「ん?なんだ、真にあずさか。今日は早いな」

「ええ。今日は、写真の撮影があって?。プロデューサーさんは、どうしたんですか?」

「あっ、今日ですね、春香のオーディション……。プロデューサー、だいじょぶですよね!」

どうやら、真も春香の事を心配している様だ。それは、あずさも同じ様で、不安そうな顔をしている。だが、プロデューサーは不安どころか、余裕な顔をしてこう言った。

「勝つに決まってんだろ!言っておくが、今の俺と春香に敵は無い!……なんてな」

「さ、さすが、プロデューサー、相変わらずですね。でも、よかったです。春香もプロデューサーも元気になって」

「そうね?、あのままだったら、二人ともジメジメしたままで、今頃カビていたかもしれないわね?」

「……あずささん、それはちょっとひどいかも。」

そんなやりとりをしていると、元気良く事務所の入り口から春香が入ってきた。こちらも、プロデューサーに負けないくらいのテンションである。

「おっはようございまーす!プロデューサーさん!あ、真にあずささんも、おはよー!」

「うん、おはよう春香。しっかし、今日はいつも以上に元気だね」

「春香ちゃん、今日はがんばってね。直接は応援できないけど、撮影現場から「がんばれ?」って念を送るからね」

「あ、あずさ。それはなんか怖いから却下で……」

「私も……、あずささんは撮影に集中してください!私、がんばりますから!」

プロデューサーと春香は、本気であずさがそんな事をしそうなのが目に浮かんだので、それだけは阻止する事にした。

「っと、こんな時間か。じゃ、行くか、春香!」

「はい!がんばりましょう、プロデューサー!」

プロデューサーは、春香の頭に手を置いてそう言うと、春香も元気な返事を返した。その後、真とあずさに見送られて、事務所を後にした。

            AM 9:00 TV局

TV局の審査員控え室では、審査員の3人が今日のオーディションに参加しているメンバーを確認していた。

「ん?、どうも、パッとしないね?。おっ、でもこの「都筑未来」って子はちょっといいかな」

「そうかしら?。私的にはこっちの「大塚沙織」がいいと思うんだけど……。あら、音ちゃん、何か気になる子でも居るの?」

「ええ……、ちょっとね」

そう言って、審査員の一人である歌田音が見ていたのは、春香の書類だった。

「あら、この子はこの前……」

「ああ、覚えてる。ぜんぜんダメだったじゃないか。今更、気にするほどなのか?」

「そうね……。でも、この前と同じだったらの話だけどね」

そう言って、歌田は書類を机に戻した。それでも、歌田は春香の事を気にかけていた。

(さて、あの子とあのプロデューサー。答えは見つけられたのかしらね……)

一方、オーディション参加者の控え室では……

「……う?ん、この待ち時間がちょっとイヤですね?、プロデューサー」

「そうだな。まあ、今日までレッスン漬けだったんだ、今の内に休んでおけ」

プロデューサーはそう言って、春香にジュースを渡した。春香はそれを受け取ったが、下を向いたままであった。

「どうした?今更、怖気づいたか」

「そうじゃないんです……。プロデューサーさん、もしも、今日また負けちゃったら……」

春香が何か言いかけた時、プロデューサーは春香のほっぺを左右に引っ張っていた。

「ふぇ?、ふろひゅーはーはん?、いひゃいですよ?」

「お前がくだらない事を言おうとするからだ。春香、不安なのは分かる。でもな、そこで下を向いたらだめだ。ほら、新曲の歌詞を思い出せ」

プロデューサーが頬から手を離すと、春香は少し考えて言った。

「……そうですね。すいません、プロデューサーさん。下より前を、前より上を向いて、私、いきます!」

春香は、すべてを吹っ切る様な顔でプロデューサーに言った。プロデューサーも、それを聞いて頷くだけだった。

それから、しばらくして審査員達が控え室にやってきた。

「さてと、今日集まった方々はこれで全部ですね……では、その中から代表して2番さん。今日の意気込みを言ってもらおうかしら」

審査員に指名されたのは、他でもない春香だった。だが、春香ははっきりと、自信たっぷりの声でこう言った。

「私、合格したいです!いえ、してみせます!」

その言葉を聞いた他の参加者は、あまりにも自信ありげに言うので声を失ってしまっていた。しかし、それを聞いた歌田は、笑顔で春香に返した。

「大変いいお返事ですね。本番では期待してますよ、天海さん」

「あっ、はい!ありがとうございます!」

嬉しかったせいか、春香はプロデューサーの方を笑顔で向いて喜びを表した。プロデューサーは 苦笑いしながら「前を向け、前」と、口だけ動かして注意した。審査員達は、控え室を出た後、予想外な出来事に驚いていた。

「いや?、あれがこの前のあの子かい?なんていうか、力みなぎってた感じでよかったね?」

「そうね、そうね!どうしちゃったのかしら、この前は何にも思わなかったのに、今日のあの子はビビッ!と来る物が感じられたわ?」

「ふふ……。どうやら、あの二人はまだ終わりじゃないみたいね。本番が楽しみね」


……オーディション本番前。

春香とプロデューサーは、最後の打ち合わせをしていた。

「大丈夫か、春香。やれるな?」

「はい!私のために協力してくれたみんな……それに、プロデューサーさんに応えるためにも、私、今日は負けたくありません!」

春香の強い意志に、プロデューサーは何かかけてやれる言葉は無いものかと考えていた。

「えっと、春香。お前が、初めてオーディション受けた時に、俺が言った言葉。あれ、覚えてるか?」

「はい。でも、あれって、しょっちゅう言ってますよねプロデューサーさん♪」

「そうだっけか。まあ、いいや……、なら、あえて言うぞ。春香、絶対に勝てるぞ!いいな!」

「はい!ありがとうございます!プロデューサーさん!!」

そして、春香の番号が呼ばれた。春香は、大きく手を振って「いってきます!」と言って、オーディション会場に歩いていった。残されたプロデューサーは、その舞台袖から春香を見守る事しか出来ない。だが、その表情はとても晴々としているものであった。

「……そうさ、今日のあいつなら負けないさ。がんばれ、春香」


「それでは、エントリーナンバー2番さん。オーディションの選考曲を言ってください。」

「……はい。曲名は、「GO MY WAY!!」です!」

こうして、春香とプロデューサーのアイドルとしての戦いは、まだまだ続く。それでも、二人は負けない。どんな事があっても、心はいつも上を向いているのだから……

END
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【 2007/03/01 (Thu) 】 アイマスのSSですよ♪ | TB(0) | CM(0)
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